子供の頃、 我が家にはイヌもネコもいた時期があった、 けして仲がよかったわけではないが、 見事に棲み分けていた、 イヌは家の中へは上がれない、 家の中と外を土足で自由に出入りするネコを見て、 どう思っていたのだろう、 我が家のイヌは鎖でつながれ、 庭の犬小屋暮らし、 昼間庭を横切り、 縁側へ飛び上がり、 ゆうゆうと奥の座敷へ消えるネコを、 イヌがぽかんと見送っていたことがある、 階級制の厳しいイヌ族のことだから、 落ち着き払ってどこからでも出入りするネコを見て、 人間より偉いのかな、 と訝ったかもしれない、 イヌは原っぱや、 雑木林に連れていけば、 喜んで遊び相手になってくれる、 ネコは僕に一切関心を見せなかった、 しかし、 冬の寒い夜は、 断りもなしに僕の布団へ潜り込んできて、 いびきをかいて寝た、 どうも生き方が人間に依存しているより、 人間を利用している、 風を引いて咳をしていると、 うつされるのを嫌ってか、 そっと離れていく、
それから60年、 ネコは一部ペット風に飼われているが、 おおよそ昔の孤高さを維持し、 餌だけは当然の権利として、 人間に貰いながら、 見事に人間と棲み分けている、 巧みに付かず離れず、の 絶妙な距離感を心得ている、 その猫族から見て、 多様な種類が多様にペット化し、 人間に依存しているイヌ族は、 どんなふうに映るのだろう、 昔以上にイヌには関心がないのかもしれない、 10年以上前、 我が家に小型種のイヌの子が貰われてきた、 我が家にいたネコが、 猛々しく鳴き騒ぎ、 威嚇し、 見てないと飛びかからんばかりだった、 凄惨なことにならないよう、 イヌの子を別の部屋に隔離したが、 ネコはドア越しに威嚇し続けた、 危険なのでイヌの子を他家へあげたが、 ネコの猛々しい反応は、 テリトリーを守る当然の行動だったのだろう、 人間と見事に棲み分けているのではなく、 人間を召使に思っているのかな、 と僕はつかの間、本気で思った。
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