教室で「ごんぎつね」を読んだ子供の数は6000万人超、この童話が平成の今、私たちの背中を押すかもしれない

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志茂田景樹-カゲキ隊長のブログ No.265 2013年5月7日 掲載分
 

教室で「ごんぎつね」を読んだ子供の数は6000万人超、
この童話が平成の今、私たちの背中を押すかもしれない

新美南吉記念館の芝生の敷地に、
展望台風の台が設置されている。
南吉の生誕100年を記念して、
東海ラジオが制作する特番の収録を終え、
夕暮れを控えた時間に、
その台に上がったとき、
僕の視界に、
ごんぎつねの世界が広がった。
ごんぎつねのすみかがあるとされた権現山は、
小高い丘である。
約1キロ先に盛り上がる権現山の全容は、
すぐ目の前を通る道路越しに立つ、
2階建ての民家にそのあらかたを隠されて、
定かでない。
でも、
その民家は平屋の藁葺に変わり、
その脇の細い畑道を、
腰につけた魚籃を揺らしながら、
権現山の麓を洗って流れる矢勝川へ、
ウナギを捕りにいく兵十の後ろ姿が、
視界に浮かび上がりました。
ごんは兵十が捕ったウナギを逃し、
兵十にいたずらものとして憎まれます。
ごんは兵十の母親が亡くなり、
一人ぼっちになったことを知り、
おなじ境遇の自分と重ねて、
同情し、
後悔します。
償いに栗や、松茸を届けますが、
兵十はまさかごんのやったこととは思わず、
神様がくだされたのだと思い込みます。
ごんは自分の思いが伝わらないことに、
もどかしさを覚えながらも、
兵十に山の幸を届け続けます。
それはすでに償う意識を超え、
一方的に尽くす行為になっています。
こうして、
最後の場面になって、
兵十はあのいたずらぎつねが、
家に忍び込んだと誤解し、
火縄銃で撃つのです。
ごんが届けた栗に気づき、
「お前だったのか…」
と、すべてを悟ります。
倒れたごんは目をつぶったまま、うなずきます。
この物語を初めて読んだのは、
中学1年のときで、
学校の図書室で見つけた、
古びた南吉著の童話集の表題作でした。
当時、
知らない街の中学に進学した僕は、
いじめにあっていました。
昼休みになると、
食事もそこそこにすぐに、
図書室に走りました。
いじめを避ける意味もあったのです。
ごんが撃たれる場面では、
撃たなくてもいいじゃないか、
といじめを受けている自分と重ね、
兵十に反発したものです。
でも、
年を経て読み返すごとに、
ごんの気持ちが、
ひしひしと伝わってくるようになりました。
尽くしても尽くしても、
その思いが伝わらないこともある、
ということを撃たれることで象徴しているのです。
この世の中には、
そういう不条理なこともあるということです。
そうであっても、
伝わらなくても、
尽くすということは貴いのだ、
と南吉は伝えたかったのかもしれません。
ごんは今際の際に、
それが兵十に伝わったことを知り、
うなずいて満足したのでしょう。
小学生の教科書で学んだ人たちが、
今、このごんぎつねを読み返したら、
見返りを求めない行為の、
はっきり言えば、
愛の貴さを思い知らされ、
背中を押された気持ちになる、
のではないでしょうか。

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