おれんちの庭へね、 町会長がやってきたの、 「私の記憶じゃね、昭和40年だったかな。東京のスモッグが、 いちばん濁って濃かったねえ」 だと。 1965年かあ、 ネコのおれにとっちゃ、 何世代も大昔のことよ、 町会長によると、 大田区港区北区の空が特に濁っていたらしいな、 太陽がモネの絵のようで、 光化学スモッグだから、 目はチカチカ、鼻腔はヒリヒリで、 これはいけねえ、 と営業の途中だったが、 喫茶店に避難したのだと、 満席でね、 みんなスモーカーみたいな頃だったから、 店内はタバコの煙で烟っていた、 でも、スモッグの毒性は毒ガスみたいやろ、 と町会長は笑ったものよ、 まっ、それはともかく、 空高く飛んでいた赤とんぼが、 スモッグに巻かれて、 ポトポト落ちたというのだよ、 ほんまかいな、 しかしね、 町会長が手にしていた新聞の、 北京の写真は不気味もいいところよ、 何しろ、高速道路の少し先が霞んでいる、 垂れ込めてるのよ、 東京にはこんな光景はなかったよ、 と町会長の声は震えていた、 北京はこれで一部が交通止めになったのだよ、 こんなのが黄砂と一緒に日本へ運ばれたら、 たまんないだろ、 世界で対策立てなきゃ、 地球は浄化不可能になるぞ、 あの国は汚染については軽く考えてるのだよ。
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