せめて絵本の世界では臭いものに蓋をしてほしくない

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志茂田景樹-カゲキ隊長のブログ No.366 2015年6月1日 掲載分
 

せめて絵本の世界では
臭いものに蓋をしてほしくない


中学2年だったと思う。
母が1冊の絵本をどこからか探し出してきて、
「これ、覚えている?」
と、訊いた。
ひと目その表紙を見て、
「よく覚えているよ」
と、すぐに頷いた。
「赤いくつ」だった。
母に繰り返し読んでもらっている。
「母さん、気に入っていたんだ、それ」
「何言ってるの。もう繰り返し読んであげたのに、
これ読んで、これ読んで…とうるさかったんだから。
貴方、3つだったよ」
「そうかなあ」
「貴方には1歳のときから読み聞かせをしているの。
この絵本は3歳の誕生日あたりからかな」
「怖い場面があったな」
「赤いくつを履いたまま、両足を切断されるところ。
貴方はその場面にくると、いつもヒヒーッと悲鳴のように短く泣いたものよ。
その後は真剣に終わりまで聞いていたわ。
あの残酷な場面が好きだったのね」
母は冗談のように言って頬を崩した。
後年、読み聞かせをやるようになって、
和洋の名作絵本から残酷な場面がカットされたり、
穏やかな表現に書き換えられているものが、
少なからずあることに気づいた。
子ども達にそういう場面を見せたくない、
ということであろう。
絵本のサイン会でも、
「楽しい絵本はどれかしら? 
子どもにかわいそうな場面のある絵本は読み聞かせたくないの」
というお母さんがよくいる。
絵本はメッセージを持っている。
かわいそうな場面を見せて、
人の悲しみや、傷みが解るようになり、
そういう立場の人に優しくすることの大切さを伝えている。
残酷な場面を見せて、それがいけないことであり、
他の場面で愛情の貴さや、何が正義かを伝えている。
臭いものに蓋をしてしまったら、
いい香りのものを理解できない。
これが正しい、これがよいことだ、
と教えても、子供は押しつけられている、
と感じるだけで、判断力が養われない。
とんでも絵本が増えていけば、
正邪善悪の区別が曖昧なヤワな子どもが増えるのではないか、
と読み聞かせ活動をしている身には、
ゾッとする状況がある。

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