下妻の柿とロリータフアッション
今年は柿が豊作らしい。柿好きの僕にとってとても有難い。スーパーに山積みになっている柿の値段も手頃である、
読み聞かせに行った先々でも柿が出るし、通りがかりの家の庭の柿の木の実も鈴なりというだけでなく色にも艶がある。
先日、下妻市立図書館に講演に出かけた。
事務所スタッフの同行もないので、ぶらぶらローカル線の半日の旅になり、わくわく出発した。まずつくばエクスプレスで守谷まで行く。ここまでは読み聞かせや、講演で乗ったことがある。
関東鉄道常総線に乗り換えてから、俄然、ローカル色に何もかもが染まった。無人駅もあるし、運転士兼車掌さんが1両に何人も乗っていない乗客が乗り降りする度に、整理券を渡している。
のどかな光景の広がりに、僕は劇場とテレビで各1回ずつ観た「下妻物語」を思い出していた。この映画は2度も観ているのにそのストーリーをほとんど覚えていない。
原宿ビジュアル系ロリータフアッションの桃子と、チバラギ下妻系の特攻服姿で50シシー原付チャリを乗り回すヤンキーお姉ちゃんの噛み合わない交流と、それが立ち上らせる異世界的な感覚が何とも心地よく、ストーリーなんかどうでもいい映画だったのだ。
多分、それだけこの作品は傑作で、先に行くほど評価が高くなるかもしれない。
通過した河川の左岸を桃子がふらふら歩き、右岸を原付チャリに乗って疾走するヤンキー娘を、一瞬、目撃したように感じたのは晩秋にしては霞立つようなどんよりと暖かい日和のせいだったか。下妻駅で迎えの車に乗り、街並みのくすんだ色合いに、なるほど、この通りをロリータファッションの桃子が歩いたらミスマッチをはるかに超えて目立つだろうと納得した。
控え室で食事の前に柿を出された。豊作の年の柿は甘みも優る。下妻の人は「下妻物語」を知っているだろうかと思いながらむしゃむしゃ食べた。
講演の演題は「直木賞が広げたもの」で、フアッションもその1つなので、どういうきっかけでカゲキファッションになったかを話しているとき、他のエピソードを話したときよりもはるかに真剣に聞いてくれた女の子がいる。最前列に陣取り、会場唯一のロリータフアッションだった。
実はせっかく下妻にきての講演だから一人ぐらい桃子がいて欲しいと思っていたところだったので、会場に入りその姿を初めて見たとき嬉しかった。終わって5,6人から質問を受けたが、その子も何人かの質問に答えた後、勇気を出したように手を挙げた。
僕のフアッションに関する質問で、丁寧に答えたのにその内容は定かでない。ロリータファッションの印象が定かすぎて、そっちのほうはぼんやりしてしまったらしい。
いい小旅行になった。 |