志茂田景樹隊長が高二(杉並区立高井戸第二小学校)にやってきた。
まず控え室に行き、その後校長室までやってきた。はでな衣装は本で見た通り。温かそうな笑顔をたたえてね。聞いていたところでは、シャイであまり人と話したがらないとか。まず持っていた本にサインしてもらう。それから隊長がどこで生まれたとか、小学校時代の思い出を聞く。現在でいうと熱海市の生まれとか。そこで伊豆半島の道路事情とかを話す。そして興が乗ってきたところでもう一つ。ネクタイにサインをしてもらった。「今が出発点」という言葉とともサインをしていただいた。なんか隊長が書いてくれる言葉は一つ一つ含蓄があるなあ。(そうだ、あれを校長室前の掲示板に張らなくちゃ)事情通によると校長室では挨拶だけすませ、すぐに控え室に戻るといっていたが、少しは居心地がいいと感じてくれたのか、校長室にいてくれる。係の人がお茶をいれてくれ、副校長が用意してくれたお菓子を少し。マネージャ役の奥様と美人のフルート奏者仁平さんが、劇場準備のため、あたふたと走りまわりはじめる。隊長は、泰然自若。打ち合わせらしいものは、ほんの一言二言。それも隊長は、「ふーん」と「そううなの」とか。さすがに何十回も何百回も読み聞かせをしているだけに、そう打ち合わせをする必要がないといわんばかり。まあそうなんだろうな。
いよいよ本番。
校長の私が先に会場の体育館に向かう。いよいよ始まりだ。
はじめの挨拶をしてマイクを係に渡そうとするともう少しひっぱっての合図。そこで、隊長が入場したらこうやって歓迎するんだよと拍手の練習をしていると隊長入場の呼びかけもしてもらいたいとの合図。そこで、みんなで声を合わせて「志茂田先生」と呼びかける。するとにこやかな笑顔で隊長が入場してきた。本校児童と保護者405人、教職員30人が見守る中、緊張するのでもなく、淡々と。
校長室に登場したときからの隊長の印象は、一貫して「淡々」というのが正直な感想だ。衣装から、つい派手なパフォーマンスの印象があるけれど、実は「淡々」というの合っているなと感じていた。でも、隊長が自己紹介を終わり読み聞かせをする段になると、やはりというべきかガラっと様相が変わる。それは「この話は楽しいんだぞ、だからよく聞いていてね」という自信と実績のなせる業なのだろう。もう隊長は子どもたち一人一人を見ているというより子どもたち全部をひとつの話し相手と見ているのだろう。目の前をみているようでいて遠くに焦点があっている目にそれを感じる。そして、自分の作った話だから、どこでどう登場人物の心が変わっていくか(というか、自分が書き手としてどこで心が変わるように書いたのか)を熟知しているので、話しの展開に何の躊躇もない。オリジナルに気を使うことなく、自分がオリジナルというのがこれほど説得力のあるものだとは思わなかった。隊長の読み聞かせは、何かをなぞって再現しようとしているのではなく、オリジナルのすごさが聞き手を引き込むよさであるのだとしみじみ感じた。
読み聞かせを2編していただき、その後、物語を作るという即興での物語制作のワークショップをしていただいた。さすがに作家だなと感じるのは、物語の展開が1本道ではないことだ。ストーリーには必ずサブストーリーがあり、それが物語を豊潤なものにしている。その間、子どもたちや私たちを魅了して劇場はエンディグを迎えた。これで終わりとなった瞬間から、隊長はもとのシャイな人に戻って「淡々」と校長室で珈琲を飲み、そして清々しさと余韻を残して去っていった。
これが本校で行われた夢の劇場の夢のあらましである。 |